蜜恋ア・ラ・モード

中では女性三人が何やら楽しそうに話をしていて、私たちに気づくと示し合わせたように同時に立ち上がる。

高浜さんをはじめ女性陣は20~23歳と若く、すぐに意気投合したみたい。

でも今まで笑顔だった三人が私の後ろに立つ有沢さんを見つけると、少し表情が変わった。

きっと彼女たちも私と同じように、料理教室だから全員女性だと思っていたのだろう。なのにこの場に似つかわない大人の男性が入ってきて、動揺する気持ちはよくわかる。

でも料理を覚えることに、男も女も関係ない。募集した時も女性オンリーとは謳ってなかったのだから。

今更人数の調整も難しいし、できればこの初心者コースはこの四人で進めていきたい。

心にそう決めると、一歩足を踏み出す。


「お待たせしました。こちらがこのコースの最後のひとり、有沢薫さんです。男性の方でちょっと驚いたかもしれないけれど、四人で仲良くやっていきましょう」


彼女たちを緊張させないように。笑顔を心がけて話しかけると、彼女たちの顔にも笑顔が戻る。

それを見た私は後ろを振り返り、有沢さんに前へ出るように促した。


「有沢さん、皆さんに簡単な自己紹介をお願いできますか?」


有沢さんは私に笑顔を向け、「はい」と答えると横に並ぶ。


「皆さん初めまして。有沢薫、三十二歳。こんなオッサンが一緒ではやりにくかもしれませんが、よろしくお願いします」


オッサンって……。言うほど歳はいってないのに。その言い方がちょっと可笑しくて、クスッと笑ってしまった。

彼女たちも笑顔を見せると有沢さんはさっきの玄関と同様、丁寧に頭を下げた。

すると彼女たちから、拍手が沸き起こる。


「全然大丈夫ですよ。仲良くやりましょうね、有沢さん」


高浜さんがそう言うと、他のふたりも大きく頷く。

良かった。高浜さんの一言で、この場の雰囲気が変わった。一時はどうしようかと思ったけれど、これでこの教室は大丈夫。いい教室になりそうだ。

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