蜜恋ア・ラ・モード
この手はなに? どうしてここで止まっているの?
直接触れられているわけじゃないのに、そこから熱が帯びてきて。
きっと今、私の顔は赤くなってるんだろう。
というか、顔が熱すぎるし!!
数秒のことだけれどこの状態が恥ずかしくなって俯けば、有沢さんも何かに気づいたのか頬に寄せていた手を慌てて引いた。
「す、すみませんでした。都子先生」
すみませんでした───
その“すみません”は、どのことに対しての“すみません”なの?
なんて聞けるはずもなく。
「い、いえ。わかっていただければいいんです。自分の場所に戻って下さい」
至って真面目に、俯いたまま答えるだけで。
ホントは相手が有沢さんだって、もう少し注意するつもりだったのに。あんな事するもんだから、調子が狂って何も言えなくなっちゃったじゃない。
そんな自分に呆れるように小さくため息をつくと、後ろからまだ怒り冷めやらぬ大きな声が飛んできた。
「おいっ待てよ。まだ話は終わってないだろう」
あぁ、まだ洸太がいたんだった。すっかり忘れてたよ。
今度は誰が見てもわかるように大きくため息をつくと、俯いていた顔を上げクルッと洸太に向き直る。
「話も何も、洸太と有沢さんは何も関係ないでしょ!! 洸太が勝手に有沢さんに絡んでるんじゃない」
「絡んでるってなんだよ!! 俺はなぁ……」
「はいはい、分かったから。話は教室が終わってから聞くから、今すぐここからでていくか静かにそこに座って待っててくれる?」
「お前、あいつと俺に対する態度、違いすぎないか?」
「あ、当たり前でしょ。洸太は幼なじみなんだから」
そして私と有沢さんは講師と生徒。
今日初めて会ったばかりの、それもちゃんと彼女のいる大人の男性。
そんなことは言うまでもなく、態度が違うのは当然というもので……。
自分でもわからないモヤモヤとした気持ちを隠し、まだ納得できていない洸太を椅子に座らせると、顔を笑顔に戻してキッチンへと急いだ。