蜜恋ア・ラ・モード
ゴツッゴツッと音がして、音がした方を見れば。有沢さんがこんにゃくをスプーンで一口大にちぎっていた。
「そうやってスプーンを使ってちぎると、断面が多くなって味が染み込みやすくなるんですよ」
「あぁ。おぼろげな記憶ですが、子供の頃母親がそんなことを言っていたような気がします。でも母は手でちぎっていたような」
「そうですね。手でちぎるのもありですね。凸凹した断面がいいんです」
私の話を聞きながらも一生懸命作業を続ける有沢さんの姿は、やっぱり好感が持てて。
でもそんな姿も彼女さんのためなんだと思うと、ちょっぴり嫉妬心が生まれてきてしまった。
鍋にこんにゃくを入れ強火で空いりして水分を飛ばす。別の鍋でサラダ油大さじ一杯を熱し一口大に切った鶏肉を炒め、表面の色が変わったところで皿に取り出す。
このふたつの作業は、面倒でもやるやらないでは味や食感が全然違ってくる。
「手間を掛けた分、どこに出しても恥ずかしくない一品に出来上がります。手抜きしないようにしましょうね」
レシピにメモしている有沢さんの姿をチラッと見て少しだけ笑みをこぼすと、次の作業にとりかかる。
「さぁ、筑前煮の煮込みに入りましょう。今鶏肉を炒めた鍋に油を……」
手順を説明しながら、ひとりひとりを見て回る。
ダシ汁やしいたけの戻し汁、調味料などは事前に各自に用意しておいた。
鶏肉を炒めた鍋に材料を入れると、全体に油が回るまで炒める。そこにダシ汁やしいたけの戻し汁、しょうゆ以外の調味料を加え落し蓋をし、中火で五分ほど煮て先に甘みを材料に含ませる。