蜜恋ア・ラ・モード

「有沢さん。彼女さんと何かあったんですか?」

「えっ?」


一点を見つめていた有沢さんが慌てて私の方を見ると、曇っていた顔をパッと明るく変えた。でもそれはとても不自然で、明らかに作り笑顔だとわかる。

なんで彼女がいるのに、そんな顔をするの?

彼女がいる人がするような顔じゃないんだけど……。


「喧嘩でもしたんですか?」


どれだけ仲がいい恋人同士でも、喧嘩のひとつやふたつはするだろう。その真っ最中だったら、有沢さんの様子もわかるというものだ。

首を傾げ有沢さんの答えを待っていると、


「まぁ、そんなとこですかね」

「やっぱり」


思っていた通りの返事が返ってきて。案の定の答えに声を出してしまい、慌てて口を噤んだ。


「都子先生には敵わないなぁ。料理だけじゃなくて、人間観察も上手なんですね」


なんて屈託のない笑顔を向けられると、有沢さんのことばかり見ていた自分が恥ずかしくなってしまった。

それを誤魔化すように鍋の柄を掴み軽く揺り動かすと、有沢さんに向けて見せる。


「じゃあ今日作った筑前煮で、仲直りしちゃって下さい」


ちょっとわざとらしかったかな……。

でも有沢さんは私の様子には気づかなかったように、小さく頷いた。


「はい。きっと彼女も喜んでくれて、許してくれますよね。都子先生のお陰だ」

「何言ってるんですか!? 私は何もしてないですよ。作ったのは有沢さんでしょ。彼女さんにもちゃんと『君のために作った』って言って下さいね。それが仲直りのコツですよ」


なんて。ここ何年か恋愛したことのない私が言うのも、説得力に欠けるけど。

だぶん恋をしている女性なら、好きな人にそう言ってもらうのが一番嬉しいに決まってる。そしてすぐに仲直りできちゃうんだ。


きっと───

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