蜜恋ア・ラ・モード

こんな時に愛してるなんて、薫さんには困ってしまう。

誰かに恋をするなんて久しぶりのことで、薫さんからの愛情表現にどう反応していいものか……。

28にもなって恥ずかしい話だけど。

でも今は料理教室の時間。恋愛感情は抜きにしなきゃ。

緩んでいたギャルソンエプロンの紐をギュッと結び直すと、気持ちを入れ替えた。

今日の実習内容は、麻婆豆腐ときゅうりとタコの中華風サラダ、それにレタスとふんわり卵の中華スープ。


「今日の麻婆豆腐は、本格的な四川麻婆豆腐を作ってみましょう。調味料をちゃんと揃えれば、意外と簡単に作れるんですよ」


キッチンテーブルの上にずらっと並べた調味料たち。豆板醤に甜麺醤、豆鼓醤に花山椒。

高浜さんたちは普段、市販の中華の素を使って麻婆豆腐を作っているらしく、瓶を手にしては興味深そうに眺めている。


「今は市販のものも美味しいんですけどね。でもやっぱり自分で一から作るものは、一味も二味も違うと思います。頑張って作りましょう。じゃあまずは豆腐を切って沸騰したお湯で二分ほど茹で、ざるにあけておきます」


豆腐に重しをして水切りする方法もあるけれど、麻婆豆腐の時は沸騰したお湯で茹でるかレンジでチンして、出来上がりがベチャッとしないようにしっかり水切りする。

こういう手間は惜しまずやる。

これは初日から教えてきた、料理の基本中の基本。手を抜くのは簡単な事だけど、それでは料理の腕は上達しない。せっかくお金を払って料理を覚えに来てるのだから、美味しいものを作れるようになってもらいたい。

ひとりひとりを見て回るとずいぶん手つきが良くなっていて、彼女たちの上達ぶりについつい顔がほころんでしまう。



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