蜜恋ア・ラ・モード

それがなんなのか───

わからないフリをしてその気持ちに蓋をすると、洸太から視線を外す。このまま洸太のことを見ていたら、言わなくてもいいことを言ってしまいそうで。



昔からある住宅街に入ると、引越し業者のトラックが目に入る。鍵を渡しておいたから、ふたりの作業員が荷物を家の中に運び込んでいた。

作業員が荷物を運ぶ先には、こじんまりとした平屋の家。広い台所に広い居間、客間がふたつの今で言う2LDKの家。私ひとりが暮らして料理教室を開くには申し分のない物件を、お手頃な価格で購入することができた。

なぜなら、築年数が四十年以上経っているから……。

知り合いの不動産屋さんと一緒にここを訪れたときは驚いた。昭和の三十年代の映画なんかで観たことのある木製の引き戸に木製の窓。客間の窓側には縁側まである。今時珍しい物件だ。

なかなか深みのある佇まいで、正直嫌いじゃない。けれど、ところどころガタついていて引き戸も窓も開けにくい。すきま風も入ってきそうで、冬が心配だった。

いくら安いからといって、ここで女ひとり暮らしていけるのだろうか……。

しかしそんな心配をしている私に不動産屋さんのおじさんが、『ちょっと手を入れれば、見違えるほどいい家になる。僕に任せてみる気はない?』と。その言葉に、半信半疑ながらも頷いてしまった。

そして今目の前には昭和の良い趣はそのままに、且つ今風のデザインも取り入れた可愛らしい家が出来上がっている。

リビングの窓の外には、季節のいい頃にはそこで食事が楽しめるウッドデッキテラスも作られていて、そこから見える庭は綺麗にガーデニングが施されていた。

キッチンやトイレ、バスルームに至っても真新しく、でも壁のタイルの類は建てた当初の物を残してあって。それがまた逆に、今のデザインと相反していて面白さを誘った。

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