ヒートハート
帰ろう。
途中でコンビニに寄って、チキンとケーキを買おう。
一緒にはしゃぐ相手がいなくても、クリスマスらしいことはしておきたい。
デートをドタキャンした彼氏のバカヤロー、と罵声とともにアルコールをあおろう。
そうすれば、このモヤモヤ感がちょっとはすっきりするかもしれない。
パソコンをシャットダウンして立ちあがる。
フロアの片隅に並ぶロッカーから自分のを開け、コートを着、バッグを肩にかける。
パンツからとりだした携帯は、バッグの内ポケットに押しやる。
どうせ着信も何もないんだし、確認する必要はない。
お疲れさまでした、とまだ残る社員に挨拶をする。
お疲れさま、と自分自身に言い聞かせるみたいな、誰かに言ってほしいような。
仕事って、やって当たり前で、褒められるものではないけど。
こんな日に頑張った私を、誰かによくやったね、と頭をなでてもらいたくなる。
その誰かは、他の誰でもない、彼だけど。
タイムカードを打刻してから課を出る。
タイミングよく到着したエレベーターのドアが開き、それに乗りこむ。
1階に降り立ち、エントランスロビーの自動ドアをくぐりぬける。
とたんに、寒風が頬をかすめ、寒さに身が縮こまる。
チキンやケーキもいいけど、熱いスープで温まりたい。
晩ごはんの予定変更を決め、足早に通いなれている駅への道を歩きだす。
ふいに、左側から片腕をぐいっとつかまれた。
きゃあ、と思わず奇声を発しそうになった口元に、誰かの指が強く押しあてられる。
その指をたどって、視線を徐々に上へと向ければ、驚愕と歓喜が顔じゅうに広がっていくのが自分でもわかった。
「……なんで」
まだ仕事をしているはずで、こんなところにいるはずがないのに。
目を見開いて唖然と凝視する私を、口の片端だけで笑うコート姿の彼が、余裕のある表情でこちらを見おろす。