ヒートハート
「思ったより、早く仕事終わったんだ」
「連絡くれたら、よかったのに」
「一度、電話したけど?」
「ほんと?」
「ほんと。着歴、見てみ?」
バッグから携帯をとりだしてみると、着信履歴を見るまでもなく、待受画面上には着信のあったことを示すマークが表示されている。
いつ。
着信の振動音にすら、気づかなかったなんて。
「電話出てくれなかったから、たぶん仕事してるんだろうと思って」
「でも、なんで会社に?」
「驚かせようと思ってな。どうだ、サプライズプレゼントにはなったか?」
「なったなった」
なんてことをしてくれるのよ、もう。
サプライズを喜ぶ女心なんて、理解してくれなくていいのに。
嬉しいのか、驚いているのか、あきれているのか。
よくわからない感情で混乱を来たし、なんでか目に涙まで浮かんできた。
「早く帰ろうぜ」
涙を片手でさっとぬぐいながら、うなずく。
やっぱり、予定変更だ。
チキンとケーキは買って帰ろう。
こんな遅い時間じゃお店はもう閉店しているだろうから、味気なくもコンビニので我慢するしかないけど、ないよりマシだ。
「ねえ、コンビニ寄ろ?」
「なんで」
「チキン、買わなきゃ」
「それなら、もう買ってある」
ナイロン袋を得意げにかかげてみせる。
だけどその数、ふたつもある。
ひとつはチキンだろうけど、もうひとつって。
考えかけて、ふと、思いあたる。
もしかして。
「ケーキも?」
「もちろん。おまえ、クリスマスには絶対ケーキいるって、前にわめいたことがあったし」
「そうだけど」
何年か前のクリスマスに、今にして思えばひどく些末なことで、大喧嘩したこともあったっけ。
寒い寒い、とぼやく彼にそっと寄り添う。
こうすれば、ちょっとは暖かくなるでしょう?
クリスマスを一緒に過ごした数だけ、ふたりの想い出の数も増える。
プロポーズの言葉を聞けなくても、構わない。
高価なプレゼントも、豪勢な料理も何もなくて、とてもささやかだけど。
隣に、あなたがいる。
それだけで、愛おしさが溢れて。
ただ、幸せで。
それだけで、心は温かい。
ヒートハート【完】
