甘い恋の始め方
「理子さん!」

ドアノブを握ったところで、追いついた悠也の腕が理子を肩から抱きしめる。

(悠也さんっ!?)

抱きしめる力がぐっと入り、ふたりの身体はぴったりと重なっている。

「逃げないでください」

頭の上から降ってくる声に怒りよりも切なく聞こえる。

背後からぎゅうっと抱きしめられ、悠也の吐息が理子の耳朶をくすぐる。

こんな風に抱きしめられれば、今までの理子の身体ならすぐに反応して疼くのだが、一刻も早くここから去りたい一心で、どうして抱きしめられているのかも考えられず、悠也の腕を無理矢理外そうとした。

しかし、悠也の腕は簡単に外れない。

「話し合いましょう」

「お願いです。今の私は恥ずかしくて、悠也さんと面と向かって話が出来ないんです! だから……このまま帰してください」

うつむいたまま懇願すると、悠也の口から小さなため息が漏れる。

「……わかりました。気をつけて帰ってください」

悠也は腕をほどくと隣へずれた。

悠也の腕が解かれた瞬間、大事なものを失った思いがした。

もう戻らない大事なもの……。

金縛りにあったかのように動けなくなった理子は手に力を入れ、ドアノブを引くと廊下へ出た。

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