甘い恋の始め方
「え……」

「そうね。一人暮らしなんだから大変でしょう?」

私の戸惑いをよそに母が追い打ちをかける。

理子としては悠也と甘い一夜を期待していた。抱きしめてほしかった。だが、こんな状態では無理だろう。悠也に風邪を移してしまう。

「泊まっていった方がいい。しっかり看病してもらえるしね」

「悠也さん……明日、何時の便で?」

「ああ。言っていなかったね。もう上海へ行かなくて良くなったんだ。早く商談がまとまったから」

「そうだったんですか」

「じゃあ、明日の夜電話する。お大事に」

悠也は理子の両親に挨拶をして帰っていった。

「ほんと素敵な人ね。理子をもらってくれるなんてまだ信じられないわ。さ、早く布団に入りなさい。タンスにパジャマがあるから着替えてね」

玄関で悠也を見送った理子に母は急き立てるように言う。

「わかってるって。お化粧落としてから寝るわ」

「その前に風邪薬飲みなさいよ。いつものところにあるから」

「はーい」

世話を焼かれるのも悪くない。ひとりきりのマンションで病気になったら心細かっただろう。今は悠也もいる。心配される風邪も悪くないなと思いながら、だるい身体を動かし寝る準備をした。

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