甘い恋の始め方
「悠也は康子さんの病気で急ぎ過ぎているようだ。康子さんの気持ちもわかるが、結婚に失敗してほしくないんでね。悠也は君を愛していないだろう? それとも愛していると言われた?」

もう何も言えなかった。悠也に会う前の自分の結婚観を思い知らされた。自信をもって結婚が失敗しないと言えない。

(悠也さんを愛している私は結婚生活を続けているうちにどんどん貪欲に彼に愛されたくなるだろう。今でさえそうなのに……彼が応えてくれなかったら、つらくて別れてしまうかもしれない)

無意識にスカートの布地をぎゅっと握っていた。

その様子を篠原はじっと見ていた。

「早いうちに別れた方がいいですよ。そうすればすぐに花嫁探しが始められる」

「か、勝手なことを言わないでください。でも……社長の言いたいことは良くわかりました。失礼させていただきます」

理子は立ち上がると、篠原にお辞儀をして部屋を出た。

受付にいる女性に会釈するのも忘れてエレベーターのボタンを押した。その手は目で見てもわかるとおり、小刻みに震えていた。

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