甘い恋の始め方
「あの、」

理子はエントランスで立ち止まり、先を歩く悠也に声をかける。

「どうしました?」

別の場所で。と言いそうになったが思い直す。

(私は大人よ。ホテルで飲んだっていいじゃない)

「いいえ。なんでもありません」

「では行きましょう」

広く豪華なロビーを抜け、正面の階段を上がる悠也の後ろからついて行く。

案内されたのはホテルのバーだった。

「いらっしゃいませ。久我さま」

「少し飲ませてもらうよ」

受付にいた男性は深々と悠也に頭を下げてから、席へ案内するために先を歩く。

最高級ホテルに縁のない理子はロビーに入った時から気後れしていた。

クラシカルな雰囲気のバーで、落ち着いて飲めそうな色合いのインテリアだ。

奥まったテーブル席へ案内され、理子はおずおずと腰を下ろした。

悠也も対面に座り、すぐさま長い脚を組む。

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