甘い恋の始め方
「酒は何が好きですか? お勧めはカクテルです」

メニューを差し出されて、理子は視線を落とす。

A4サイズのメニューを持ってくれる指は長く、爪もきれいに手入れされていた。

理子の好みはカクテルとワインといった少し甘めのお酒。

しかし、カクテルの名で選べるほど知識はなくて、理子は目に留まったのを適当に選んだ。

「オリエンタル・ジュエルで」

悠也は頷くと、その場に立っていた男性にそれぞれの注文をする。

シングルモルトウイスキーの銘柄を、メニューを見ずに口にするところはやはりこのバーの常連なのだろう。

男性がいなくなると、悠也がなにか思い出したようにフッと口元を緩ませる。

「いろいろな名前を詰め込まれすぎて、君の苗字が思い出せない」

食事後に配られた個々のプロフィールは主催者に回収されており、すでに理子も他の参加者の名前もそうだが、顔すら思い出せない人もいる。

「小石川理子です」

「俺は久我悠也。君のことは理子さんと呼ばせてもらいます。俺のことは悠也か、さん付けで。ご自由にどうぞ」

「では、悠也さんで」

(久我副社長を呼び捨てで呼ぶなんて出来ないでしょ。まあ今だけのことだから呼び捨てするのもいいかなと思うけれど)


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