ウェディング・チャイム

 結局、甲賀先生は私を病院へ送り届けてくれたあと、ひとりで携帯ショップへ行き、機種変の手続きをしてからまた病院へ戻ってきてくれた。

 診察が終わり薬局から出てきた時、ちょうど甲賀先生が病院へ到着したようだった。

「どうだった?」

 車に乗り込んですぐ、甲賀先生が心配そうに話しかけてきた。

「扁桃腺炎でした。私、よく熱を出すんです」

「そっか……。きっと疲れが溜まって、疲労のピークだったんだな。もしかしたら昨日も具合悪かったんじゃないのか?」

「いえ、元気でしたよ。大きな行事が終わって、気が抜けちゃったんだと思います」


 そう、今まで張りつめていた気持ちが、一気にしぼんでしまったというか、抜け殻になってしまったせい。


「とにかく、今日はゆっくり寝て休もう。ちょっとコンビニに寄ってから、送っていく」

「すみません。お願いします……」



 甲賀先生の車はそのまま近くのコンビニへ入った。

「ちょっと待ってて。何か欲しいものはあるか?」

「ええと……ドリンクゼリーが欲しいです」

「了解。じゃあ、それも買ってくる」


 コンビニの店内で買い物をする甲賀先生の姿を、助手席の窓からぼーっと見ていた。

 やっぱり大きいなー、チャコールグレーのジャケットも似合うなー、今日は休日だから眼鏡だ、なんて。

 そういえば、あまりにも忙しくて色々な話をちゃんとできないままだったから、今日こそチャンスだと思っていたのに。

 実習生の大崎先生から言われたこと、甲賀先生の人事のこと、そして甲賀先生に対する気持ちも、まだ何も話せていない。

 そんなことを考えているうちに、お買い物が終わった甲賀先生が出てきて、運転席へ乗り込んだ。


「お待たせ。じゃあ、送っていくよ」

 すっかり道順を覚えたらしく、案内なしで車はスムーズに目的地の私のアパートへと到着した。

 そのまま私だけが降りて別れると思ったら、甲賀先生は私を車から降ろして、荷物を持ってくれる。

 アパートの自分の部屋の前で、甲賀先生にお礼を言い、バッグから鍵を出してもらった。

 鍵を開けて、持っていてくれた荷物を受け取ろうとしたのに、甲賀先生はそのまま玄関の中まで荷物を運んでくれて……。


 え? 家に入っちゃうの!?

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