恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―


「聞こえなかった? この橋から飛び降りるのはやめろよ。
どうしてもって言うなら、ここより五本以上下流側の橋にしろ」

上流で飛び降りられて流れてこられても迷惑だ、と言う男の人から目が離せなかった。
ひどい事を言われたからじゃない。

その顔に、見覚えがあったからだ。

高校の時、ずっと片思いしていた……和泉孝広にそっくりだった。

あれから五年が経っているんだから、そっくりって表現はおかしいのかもしれないけれど、整形だとかよほどの事が顔面に起こっていない限り本人に思えた。

あのまま美形寄りに成長を遂げたらきっと、こんな顔になってるだろうなって、頭の中で高校の時の和泉くんと今目の前にいる人が重なる。

「和泉くん……?」

男の人の瞳が驚きから歪む。
なんで俺の名前を知ってるんだよ、と聞く和泉くんに、懐かしさからか持て余していた心細さからなのか涙が溢れだす。

そのまましゃがみ込んで泣き出してしまった私に、和泉くんは戸惑いからか眉を潜めてから面倒くさそうにため息を吐き出した。





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