恋踏みラビリンス―シンデレラシンドローム―


和泉孝広と出逢ったのは、高校一年生の入学式だった。

教室に荷物を置いた後、入学式が行われる体育館に行こうとしたのだけど、初めての校舎に迷ってしまって。
言葉通り右往左往して泣き出しそうになっていた時、声をかけてきてくれたのが和泉くんだった。

同じように校舎内で迷ったんだって笑った和泉くんは、涙目になっていた私にゆっくり行こうと笑ってくれて。

その笑顔は五年が経った今でも鮮明に覚えてる。
とても優しい笑顔だったから。

和泉くんと同じクラスだって判明したのは、その後すぐ。
入学式に遅れた私たちは、思いきり先生に顔をしかめられたけれど、特にお説教される事はなくて、和泉くんはよかったねと微笑んでくれた。

いたずらっこみたいにそう微笑んだ和泉くんに胸が高鳴って、心の中に小さな恋心が芽生えたのだけど。

優しく明るく文武両道で、更には外見もいい和泉くんの人気が凄まじい事は入学して一週間が過ぎた頃には分かっていたから、なかなか近づくことはできなくて。

それなのに、遠くからしか見ている事ができない私にいつも和泉くんは近づいてきてくれて、色んな話をして一緒に笑ったり、試験前にふたりで勉強したり。

早とちりで勘違いばかりの私を、和泉くんはいつも注意しながらも、仕方ないなって感じに微笑んでくれて……そんな和泉くんに想いを込めた手紙を渡そうとしたのは、高校に入って一年が経った頃だった。






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