いとしいあなたに幸福を
世間一般的には十五、六で一人前と認められるにしても人生の伴侶を決めるには些か早過ぎる。

それも厭わず厘が十四の周に縁談を勧めるのは、周の跡継ぎの誕生を命のあるうちに見届けたいが故である。

息子も、その子である孫も、母にとっては単なる道具でしかないのか――

先の短い母のために、とは頭では解っているものの。

国の民より何よりもそれを優先する今の厘の言葉を、周はどうしても率直に受け入れることが出来なかった。

「っ…俺が経験不足なのは、重々承知しています。けれど…だからこそ俺は、経験を重ねるべきではないんですか?」

「周、私は今お前を失う訳には行かないのよ。お前の身にもしものことがあれば、霊奈の血筋が途絶えてしまう…」

(俺を、失いたくない、のは)

血筋を守るため、であって。

俺が大切だから、ではない。

「……母さんっ…」

(俺は貴方に跡継ぎとしてではない、周という名の息子として見て欲しいだけなのに)

「…周?」

「――厘様!厘様、大変です!!」

俄に、扉の向こうから厘の部下の声が響き渡った。

「どうしたの、騒々しいわね」

厘が不快げに諌めたが、部下は焦った様子のまま矢継ぎ早に言葉を続けた。

「それが…っ南東に位置する集落から、昨夜の間に住民全てが姿を消しました!!」
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