いとしいあなたに幸福を
俺を探しに出た悠梨が怪我をしたから、愛梨はそれを隠したのか。

愛梨が慌てた様子で先を急いでいたのは、悠梨を心配してのことだったか。

「…でも悠梨が愛ちゃんを迎えに来させるなんて、妙じゃないか?」

悠梨なら、愛梨の手を煩わせるくらいならば意地でも自力で帰って来そうなものだ。

「そういえば…愛ちゃんを呼び付けるなんて悠梨くんらしくないですね…」

「それが、直接電話を受けたらしい者が何処を探しても見付からなくてっ…最近入ったばかりの新人だったらしいんですが…」

「まさか…」

愛梨を邸の外へ連れ出すために悠梨は囮に利用されたのでは――

ぞくりと背筋に寒気が走った。

まさかそんなこと、単なる杞憂であって欲しい。

けれど嫌なときばかり的中する、悪い予感がする。

もうこれ以上、誰も失いたくないのに。

よりによってあの二人の身に何かあったら――

「……いや」

「周様?」

都を死なせてしまった。

母と、理解し合えなかった。

ならばいっそ生まれて来なければ良かったと思った。
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