いとしいあなたに幸福を

09 凶星-きょうせい-

「――さてと、愛梨…お前に選択肢を与えてやろう」

架々見は爪先でゆっくりと悠梨の顎を持ち上げると、愛梨の反応を確かめるようにじっとこちらを見つめた。

少しでも身動ぎしようものなら兄に危害を加えるのではないかと、愛梨は恐る恐る息を飲んだ。

「っ…」

「お前が大人しく私のものになるなら兄は見逃してやろう。あの若造から数少ない友人まで取り上げてしまっては流石に気の毒だ」

周のことを指して、架々見はくすくすと憐れむように笑った。

春雷の内情は、何処までこの男に知られているのだろう。

少なくとも、周が都と厘を立て続けに失ったことで塞ぎ込んだことは勿論、悠梨が周と友人関係にあることも知っている。

自分たち兄妹の居場所もいつの間にか突き止められ、誘き出す機会を窺っていたのか。

「だが愛梨、もしもお前が私を拒むのなら…私も無理強いはしまい、お前は帰してやろう。その代わりに、此処で兄を殺してやる」

「……!!」

全身から一気に血の気が引いた。

この場で、兄の命を奪う。

目的のためなら容赦なく人間を殺めるこの男のことだ、決して脅しではないだろう。

なら、兄を助けるには――

「私を受け入れれば兄は助かる。お前にも何ら不自由はさせない…幾らでも望むものを与えてやる。どうだ愛梨、悪い話ではないだろう?」

両親を、故郷の仲間たちを――全てを自分たちから奪ったこの男に従うしかないのか。

「…っざけん、な……この、変態がっ…」
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