いとしいあなたに幸福を
「さあ…どうする?このまま兄を見捨てるも助けるも、愛梨次第だ。好きなほうを選ぶといい」

悠梨を死なせたくない。

だけど架々見に従うなんてことは、悠梨が何よりも悲しむことだと解っている。

けれど、生まれたときからずっと傍にいて守ってくれた兄までも、故郷の仇である男に殺されてなるものか。

「私の言うことが信じられないか?何なら兄を霊奈の邸まで、送り届けてやってもいいぞ。それなら信頼出来るだろう、うん?」

だったら――

「…本当に、兄のことは見逃して貰えるんですか」

「愛梨っ…?!」

愛梨は意を決して、架々見の眼を真っ直ぐ見据えた。

対する架々見は愉しげに笑みを噛み殺しながら、愛梨に頷いて見せる。

「約束しよう」

「!架々見様っ、それでは話が違うではありませんか…!兄のほうは私に譲って頂ける筈ではっ…」

「えっ…」

愛梨を捕らえている黒髪の男が、突如不服を申し立てる。

すると架々見は男に対して刺すような視線を向けて低く唸った。

「黙れ…!後でいくらでも代わりをくれてやる。それとも今、此処で消されたいか?」

「ひっ…!わ、解りましたよ…」

尋常ではない威圧感に、男は渋々ながらも引き下がる。
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