いとしいあなたに幸福を
周が俯いたまま口籠っていると、厘の大きな溜め息が聞こえてきた。

「……周。私の留守中に、南東の集落から生存者を見付けたそうね」

「は、…はい」

「今回は偶然良い方向へ事が運んだに過ぎないわ。突発的な行動は今に足元を掬われる、気を付けなさい」

「…………」

労いの言葉なんかは、元より期待していなかった。

けれど、悠梨たちを助けられたことで母を見返せると心の何処かで考えていた周は、その言葉に胸が締め付けられるようだった。

「…しかし、その行動のお陰で助かった命があるのは事実」

「…!」

その少し優しげな声色に周は耳を疑って、勢い良く顔を上げた。

「その、助けた兄妹は無事なの?」

「あ…はい。二人共ほぼ丸一日は目を覚ましませんでしたが…兄も妹も大事ないようです。重症だった妹も、あと五日もすれば退院出来るかと」

そう告げた瞬間、厘は微かに微笑んだように見えた。

「そう。この兄妹のこれからの処遇について、お前はどう考えているの?」

「二人と母上から了承が得られればの話ですが…使用人として邸に迎え入れたいと思います。俺の目の届く場所に置けば、彼らを見守ることにもなるでしょう?」

周の回答を聞き届けた厘は、再び小さく息をつくと幾分和らいだ視線をこちらへ向けた。

「お前の救った命に、私の許可は必要ないわ。好きになさい」

「…はいっ」
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