いとしいあなたに幸福を
「何、心配してくれてんの」

「えっ」

いつの間にか目の前に、周の顔があった。

ここ数ヶ月で幾分背が伸びた周は、少し屈んで愛梨の目線の高さに合わせてくれている。

「いえっ…あ、あのっ……わたし、周さんが元気ないように見えて、だから…」

「愛ちゃんは優しいな、俺は全然平気だよ。それより此処での仕事、つらくないか?」

優しいのは周のほうだ――いつもこうしてこちらのことを気遣ってくれる。

「大丈夫です、お邸の皆さんとっても優しいし…お兄ちゃんも一緒ですし」

「そっか」

助けてくれただけでなく、こうして住まいや働く場所を与えてくれた。

両親や集落の人々のことを思い出すと、月日が経った今もまだ寂しい気持ちになることはあるが。

それでも今は、此処で頑張ることで少しでも周に恩返しをしたい――そう思えば励みになった。

「結局、みんなを助けられなくて…ごめんな」

「!」

不意に周は悔しげな表情で謝罪した。

――その後、襲撃を免れた集落には厳重な警備が敷かれ、被害がそれ以上拡大することはなくなった。

だが、愛梨の暮らしていた集落やその直後に襲われた集落の人々は、結局殆ど助け出されることはなかった。

既に連れ去られた人々は、元々人身売買の市場で風使いの容姿の人気が高いことも手伝って、規制を掛けるより早く売り捌かれてしまったのだ。
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