いとしいあなたに幸福を
「――周様と都様の結婚式、素敵だったわね」

「ねえぇ、憧れちゃうわあ」

使用人の中でも若い娘たちは、未だ興奮冷めやらぬ様子でお喋りをしている。

「厘様もこれで少しご安心なさるんじゃないかしら?後はお世継ぎが生まれれば安泰ね」

「お二人の子供なら、男の子でも女の子でもきっと可愛らしい子が生まれるわよね」

「だけど都様ってお身体がお弱いのよね?妊娠や出産については大丈夫なのかしら…」

「こら、あんたたち!喋ってばっかりいないでちゃんと働きな!」

「きゃっ!!」

年長の使用人に雷を落とされ、固まって話し込んでいた娘たちは蜘蛛の子を散らしたように解散した。

「全く…っ真面目に働いてるのが一番小さな愛ちゃんだなんて情けないわね」

お喋りを交わしていた使用人たちを尻目に、黙々と夕食の仕込みの用意をしていた愛梨は遠慮がちに顔を上げた。

「あ、えっと…」

「だって愛ちゃんはまだちっちゃいですもの、こういう話題はちょっと早いでしょう?」

話し込んでいたうちの一人が不満げに口を尖らせた。

「でも愛ちゃんは美人さんだからぁ、大きくなったら何処かのお金持ちの殿方に見染められて玉の輿、なんてことあるかも知れないわよねぇ」

「愛ちゃんも、もうちょっと大きくなったら解るわよ~」

此処のお姉さんたちは、何かとそういう浮わついた話題が大好きだ。

正直、愛梨には既にあまり興味のない話なのだが、みんなに優しく可愛がって貰っている手前、何とも言えなかった。
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