【完】『いつか、きっと』
翌月。

高校野球の組み合わせ抽選の日、翔一郎は出先の大阪で愛から急な電話をもらい、仕事が片付くと快速で京都へ戻って、待ち合わせの蛸薬師高倉のタケシマへ向かった。

前に愛の肥後椿の写真を買ったレストランである。

ドアを開けた。

用件をギャルソンに告げると、奥へ通された。

「あっ、先生」

愛がいた。

「どうも饗庭さん」

ブラウンが同席している。

「えらい藪から棒に、どないしたんや?」

翔一郎は椅子に腰を下ろした。

「実は愛さんと結婚しようと思いまして」

ブラウンの発言に翔一郎は思わず口をつけた炭酸水がむせそうになった。

「大丈夫ですか?!」

ゲホゴホいいながら顔まで真っ赤にしたが、どうにか翔一郎はひとしきり落ち着きを取り戻し、

「…そらまた急やな」

「でも、日本じゃ善は急げって言いますよね」

「急ぎすぎやろ」

相変わらず翔一郎の突っ込みは早い。

「で、式の日取りは?」

「来月にロンドンで挙げる予定です」

「来月かぁ…さすがにロンドンまでは行かれへん」

「それで、饗庭さんに私たちの写真を撮ってもらいたいのです」

もちろんタダでお願いとはいいません、とブラウンは言った。

「そんなん言われたかてやな」

「先生はエマちゃんとの時どうしたんですか?」

愛が興味津々に訊いてきた。

「うーん…うちらはまともな式すら挙げてへんからやなぁ」

古い言い方やと好き連れってやっちゃから参考にもならんで、と苦笑いしながらため息をついた。

「そうだったんですか…」

いつも仲好さげなので、とブラウンは言った。

「ただ、エマが若いうちにちゃんとした結婚の写真は撮りたいんやけどな」

翔一郎は運ばれてきたスープを飲んだ。

「さすがにロンドン行きは難しいけど、撮るのはやぶさかではないから、ちゃんとスタジオで撮ったる」

そう翔一郎は言い、撮影を確約した。

「…よかった」

ブラウンと愛は安堵した顔つきになって、初めて笑顔がこぼれた。

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