彼女の世界が変わらぬ理由
マリアの絵にタイトルはない。
いつも同じ絵で、いつも無題。
十年間も、彼女の絵は名無しなのだ。
執着があるのは明らかなのに、まるで主張のない絵。
題材や構図を考えれば、もっとダイナミックに、もっといきいきとした動きのある絵になるはずだが。
彼女の絵は、いつも静か。
スタティックで、それは時を凍らせたほどの静止。
それ以外では、練習でデッサンした石膏模型や花瓶とリンゴ。
きちんと描いたことがない。
あの無題の絵以外、マリアには描く意味がないが、安東の為にならば、描いてみようという気になった。
それで最後だ。
「何の絵がいい?」
「えっ…ええと…う~んと……」
安東は腕を組んで考え始めた。
もう涙は浮かんでいない。
単純な彼女を、可愛いと思う。