彼女の世界が変わらぬ理由
中村はその絵を思い出しているのか、目を閉じて手を宙でふわりと動かした。
「風景画というよりは、抽象画に近いものですが。桜がね、雪の中に立っておるのですよ。狂い咲きなんでしょうな」
マリアはびくりと体を揺らした。
「風に煽られて、花びらが散るのと同時に、積もった雪が舞い上がるのです」
少し恍惚としたような中村の表情。
マリアは彼の気持ちがわかる。
その絵を、マリアは知っている。
「とにかく、良い作品だったのです。賞は確定だと、審査員は共通した意見でいました。…しかしね」
中村は目を開き、マリアを真っ直ぐに見つめた。
心の奥底まで、見通すように。
「私は気付いてしまいました。選考落ちした絵の中に、表現法はまるで違うが、よく似た絵があったことにです」