彼女の世界が変わらぬ理由
元々、美術部の顧問をしていたのは別の講師だった。
齢五十九歳の彫刻家。
六年前からこの学校で非常勤講師をしていたが、今年の二月に肝臓を悪くして入院した。
その講師の代わりに来たのが、元教え子の飛田だった。
飛田はヨーロッパで成功した新鋭の彫刻家らしい。
若く、顔も良く、優しげな雰囲気もあって、女子生徒からの人気が高い。
未婚らしいと、誰かが噂をしていた。
色恋とは縁遠い場所にいるマリアには、関係のない話だ。
「お先に失礼しまーす」
五時半を過ぎ、部員が次々と帰っていく。
残ったのは部長を含めた三年の生徒だけ。
彼女たちもキャンバスを片付け、帰る準備をしていく中、マリアだけはイスから動かず、絵を描き続ける。
いつも最後に部室を出るのはマリアなのだ。