Bitter Sweet
「はー、ダメ。なんかツボ突くよねひかりさんは~。オレを全く男として見てねぇんだもん!初めてかも~」

笑いすぎて目尻に浮かんだ涙をスッと手で拭い、
ビールを一口流し込む高梨。

「26?でハジメテですか~、それはめでたいね~!
世の男性方が聞いたらさぞかし羨む話でしょーね!」
フン、と冷たく言い放つと、

「やー、もう勘弁してよ!は、腹痛てー!」
おかしすぎて、また笑いが止まらなくなったようだ。


「あー、ヤバイ。どうしようオレ!」
「何がよ…。どーでもいいけどウケ過ぎ。」
まだ肩を震わせ笑ってる高梨をジトっと見つめる。

「ひかりさんに男として見てもらうためにどうすればいいか、試したくなってきた。」

ニンマリと、いい獲物を見つけて追い詰める獣のような鋭さを孕んだ、イタズラっぽい笑顔を私に向ける。

その視線に捕らわれた私は。


この生意気な笑顔に、一瞬。

…一瞬、ドキッとした。けれど。

「…試す、ね。ナマイキ言うなっての!」

パチン、とデコピンをお見舞いしてやった。

一瞬の動揺を誤魔化すため。


「イテっ!…何だよ~、ナマイキって!男女の話にそーゆうの関係ナイじゃん…」

ブツブツ口を尖らせて文句を言っている。

でも。

その日はそれ以上、一緒にいるのがいたたまれなくなって、適当な理由をつけて先に帰った。

…いたたまれないって、なんで?


私は高梨を男として認識、したの?


…いやいやいや。
全くタイプじゃないし。年下だし。自信家でナマイキだし。


なんとなく、よね。
アイツ酔ってたし。きっと明日になったら何言ったか覚えてないよ、うん。


一瞬の動揺を、気のせいにしてやり過ごす。

私が身につけた処世術の一つだった。


あんなやつに、私のペースを掻き乱されたら癪すぎる。

今まで通り、流しとけばいーんだ。

そう、意識なんてする必要ない。



…この時は、確かにそう思っていた。
この先起こる事なんて、想像もせずに。





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