Bitter Sweet
マンションのエントランスに着くと、見覚えのある人影。

「ー高梨?」

呼びかけると、こちらを向いて片手を軽く挙げた。

「お帰りなさーい。」

暗がりからじゃ分からなかったけど、照明の下で見ると、高梨の顔はほんのり赤い。

「…ただいま?…って、そうじゃなくて!どうしたのよ、酔ってるみたいだし。珍しいね?」

何度も一緒に飲んでるけど、私より高梨の方がザルなので、こんな姿を見るのは稀だった。


「ん~、さっきまで同期何人かで飲んでたー。」

言いながら、ギュッと私を抱きしめる。

「ちょっと!高梨!?酔いすぎ!!」

グーッと高梨を押しのけようとするが、ビクともしない。


「…部屋、行こ?」

スッと離れて、今度は私の腕を引っ張りエレベーターへとグイグイ進む。


あまりの勢いに呆気にとられて、思わず抗議するのも忘れていた。


ーなんで、部屋?

もう、結構遅い時間なのに。

私が高梨を部屋に入れてやる理由なんて、ないのに。

ーどうしよう。

と、悩んだところで多分。
高梨の行動は揺るがない…。


はぁ、と大きくため息を吐きながらエレベーターに乗り込み、フロアのボタンを押すと同時に高梨が詰め寄ってきた。

「ひかりさんこそ、飲んでたんでしょ?ホッペ赤い。」

言われてパッと自分の頬に手を当てる。確かに熱い。
< 95 / 263 >

この作品をシェア

pagetop