甘い香りを待ち侘びて


「俺が好きで待ってたんだから、エリがそんな顔しなくてもいいんだよ」

「だけど……」

「いつもエリが会えない俺のことを待ってることを、本当は分かってた。だから今年こそは、俺がエリを待とうと思ったんだ。待つ側も気持ちも、なってみないと分からないからね」


 寒さのせいか感情が高ぶっているせいか曖昧なまま、身体が震える。

 それはヒロくんも同じらしく、にへっと下手くそな笑顔を震えながら浮かべた。


「待つのって、結構つらいもんなんだな。……待たせて、ごめんな?」

「……わたしこそ」


 か弱く笑うヒロくんが優しくて、思いっきりその胸に抱きついていた。

 当然のように抱き締め返されるぬくもりに、とてつもなく幸せを感じる。

 お菓子の甘い香りが鼻腔を通り抜けて、胸がいっぱいになった。


「お疲れ様。会いに来てくれてありがとう」


 言いたかったことを伝えると、ヒロくんは嬉しそうに笑ってくれる。
 わたしは、この笑顔を待っていたんだよ。



 さすがに外の気温の低さに降参してそそくさと部屋の中に入ったあと、二人でささやかなクリスマスパーティーを開いた。
 小さめのソファーにヒロくんとぎゅうぎゅう状態になりながら座る。

 これはいつものことだけど、心なしかいつもより密着している気がしなくもない。

 ……まぁ、温かいから良いけれど。


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