甘い香りを待ち侘びて


 去年はティラミス風味のほろ苦いやつだったっけ。後味がさっぱりしていたのを覚えている。
 一昨年はイチゴ盛りだくさんのタルトで、その前はブッシュ・ド・ノエル。

 どれも最高に美味しくて、優劣なんてつけられないぐらいだった。

 今年は一体、どんなケーキを作ってきてくれたのだろう。ヒロくんのケーキの一ファンとしては、いつもこの箱が開けられる瞬間が楽しみなんだ。

 きっとワクワクした表情でその瞬間を待っていたに違いない。ヒロくんがニコッと嬉しそうに笑って箱の蓋を持つ。


「今年のケーキは……じゃーん!!」


 ヒロくんの明るい声と共にパカッと蓋がオープンした。そして眼下に姿を現した煌びやかなホールケーキ。

 それは例年の予想を遥かに超える出来栄えで、喜びの声は高々と上がるのではなく静かに漏れた。


「う、わー……。すごく綺麗――…」


 部屋を照らす白いライトに負けないぐらいの純白が眩しい生クリーム。贅沢に盛られたフルーツの数々。

 そして、土台の上で何より強い存在感を放っているのは……。


「これ、アメ細工?」


 ケーキのちょうど真ん中あたりに立っている人型のもの。それは明らかに砂糖菓子ではなくて、ましてやその姿はクリスマス定番のあの人でもなかった。

 これは恐らく……わたしとヒロくんだ。ミニマムサイズの二人が笑顔で仲良く手を繋いでいる。

 そしてさらにその周りには、フルーツ以外に大きなバラの花まで飾られている。これもきっとアメ細工だ。


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