婚恋

最初のハッピーエンド

それは仕事から帰ってきて缶ビールを3本空けた頃だった。
百恵から電話がかかって来たのだ。
俺がもしもしという前に百恵の
興奮した声が聞こえ、思わずスマホを耳から離したくらいだった。
「陸!陸!どうしよう~~」
その声がいい事なのか悪い事なのかもわからなかった。
ただ言えることは百恵の声がいつもの声ではなく
有村さんに話しかける時の声だったと言う事だ。
「おいおい・・・落ち着けって。どうした?」
そう言えば告白するっていってたっけ・・・
じゃあ・・まさかその報告とか?
ここまで一緒に戦ってきた同志。
何だか俺まで緊張してきた。

「あのね・・・あのね・・・有村さんが・・有村さんが・・・」
「有村さんがどうした?」
俺は唾を飲み込んだ。
「・・・結婚してくれる!」
「は?」
「だから・・・私、有村さんと結婚する!」
「マジか!」
「まじ」
「お前なんて言って告白したんだ?」
うれしいのか何だかわかんないけど俺まで興奮してきた。
「陸と結婚することになった。・・だけどどうしても踏み切れないの。
・・それは有村さんが好きだから。有村さんにもう一度振られたら
私はあなたの思いを断ち切って陸と結婚します。あなたが好きです・・・て
そしたら、陸と結婚するな!って言ったのよ。おかしいでしょ?好きって言ったのに
その返事が結婚するなって・・・だから、じゃあどうすればいいの?
有村さんが私と結婚してくれるの?
好きって言ったってあなたは何も言ってくれないじゃない。ってね。」
「ああ・・・」
「そしたら・・・抱きしめられて・・・それで・・・」
「それで?」
なんだかもったいぶった言い方にイライラした。
「押し倒されて・・・・」
「えええ?!それで・・・」
「エッチしちゃった♪」
なんだ?最後の♪マークは・・・
しかも何だこのいきなりジェットコースターみたいな
展開は・・・っていうかあいつどこからかけてんだ?
「おい!お前今どこにいるの?」
「え?!・・・・」
何なんだこの間は・・・おいおいまさか隣に有村さんがいるんですとか
言う気じゃねぇだろうな・・・
「こんばんは・・・」
あれ?この声・・・えええええ!
俺の予想あたったじゃねーかよ。
こういうときは何て答えりゃいいんだよ。

何となくこれが百恵の彼氏役としての最後の仕事だと思った。
「有村さん・・・」
「はい。」
「百恵は・・・本当に有村さんが好きだった。振られても振られても
 有村さんを思う気持ちは変わらなかった。
 そんな強い思いをあんたはちゃんと受け止める事ができますか?
 百恵だけが有村さんを思っていても百恵は幸せになんかなれません。
 有村さん自身が百恵と同じくらいの思いじゃなきゃ有村さんには
 百恵は無理ですよ。」
「はい。・・・・その点は大丈夫です。僕も百恵の事
 相当好きだったって事に気がついたので・・・」
有村さんの言葉に迷いも嘘もないとわかった。
百恵よかったな・・・
「・・・百恵の事よろしくお願いします」
「・・・はい。一生かけて幸せにします」

なんだろう
親が子供の幸せを願う様な・・・そんな気持ちだった。
そのまま電話を切ろうとしたら
「陸!次はあんたの番だよ。最後の打ち合わせは1カ月後!いい?」
声戻ってるし・・・
「わかったよ。でもお前その地声有村さんの前だけどいいの?」
百恵はフフッと笑うと
「もういいの。今よりもっと好きになってほしいから
 素の自分もみせることにしたの・・・じゃあ・・・またメールするから」
相変わらず言いたい事だけ言って切られた。

でも気分は悪くない。
なんだかまたビールが飲みたくなって
冷蔵庫から缶ビールを取り出すと冷蔵庫にもたれながら
一気にビールを飲んだ。
「・・っあー!うま~~い」

次は俺の番か・・・
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