婚恋

親の思いと俺の思い

「お忙しいのにすみません。では・・・」
はぁ~~緊張した。
きっとびっくりしてるだろうな・・・
春姫のいない時間にお話したい事があるのでお時間いただけませんか。
だもんな・・・
でもこれで俺はもう後には退けなくなったわけだ・・・

********************************

数日後・・・
俺は今春姫の自宅にいる。
家には春姫のご両親が笑顔で迎えてくれた。
・・・春姫にはうまい事言って店を抜けてきてくれた。
もちろんこの事を春姫は知らない。

目の前にコーヒーが差し出されたが
今から話す内容を考えるとコーヒーなんか
ご馳走になる資格はあるのかと考えてしまう。

だが、そんな心とは裏腹に緊張のあまり口の中はからっからに乾いている。
「ところで改まって何か相談でもあるの?」
春姫の母、忍さんが笑顔を向けてくるが
この笑顔が別の顔になるのかもと思うと
顔が引きつりそうだった。
だが、ここまで来たら腹くくるしかないよな。

俺は深々と頭を下げた。
「今日はお願いに上がりました。単刀直入にいいます。春姫さんと・・・・結婚させてください」
部屋はしーんと静まりかえっていた。
そりゃそうだ、本人なしで言う内容じゃないしね・・・
俺は頭を下げたまま顔を上げる事も出来なかった。
どのくらいの沈黙だったのだろう。
俺には相当長く感じた。
「陸君・・・顔を上げてくれないかな・・・ちゃんと話を聞きたいんだ」
春姫の父、隆俊さんに言われ慌てて顔を上げた
だが2人の顔にはさっきまでの笑顔はなかった。
怒っている様にも見えなかったが・・・
「その…2人は付き合ってー」
「ません。」
2人の目が1.5倍大きくなった。
「ません・・・・て・・じゃあ結婚って」
「僕、個人の希望です」
俺の言葉に2人はお互いの顔を見合わせた。
そして、隆俊さんは何かを感じたのだろう。
俺は大きく深呼吸をすると今までの経緯を全て話した。
春姫の事がずっと好きだったが今までその気持ちをずっと封印していた事。
百恵との出会い、偽の彼氏彼女となって春姫の気持ちに揺さぶりを掛けたかった
事、そして今回の結婚式の事・・・・

こんな無謀で馬鹿げている事を2人は真剣に聞いてくれた。
もし断られてもここまで真剣に聞いてくれたなら
もういいかなとさえ思えた。

「・・・・・式が終わったら彼女には本心を伝えます。
この偽の結婚式が、本当の結婚式となる様に・・・・
ですからどうか了承していただけませんか!」
俺はテーブルに頭がつくほど思いっきり頭を下げた。
これだけ下げたら…って事は何も思っちゃいない。
普通ならいい加減にしろって追いだされかねない内容だしな・・・
「陸君・・頭を上げて?」
忍さんの優しい声に思わず顔を上げると・・・
「もし、結婚式で偽の花嫁をやりたくないって春姫が言ったら・・・?」
「・・・・それが彼女の本音だと受け止め全てを諦めます」
それしか言い様がないと思った。
だが・・・
「陸君の気持ちはその程度の物なのか?・・・・だったら俺は断るよ。
 君の計画している事は娘の人生を変えるかもしれないんだ。
そのすべてを受け入れる覚悟とすぐに諦めない気持ちがないようなら
この話はなかった事にするから・・・」
「ちょ・・・ちょっと待ってください。俺・・・いや僕はそんな生半可な
気持ちで来たんじゃありません。どうしても彼女じゃなきゃだめなんです。
どうかお願いします」
・・・ちくしょー。綺麗事並べてる場合じゃなかった。
握りこぶしに力が入る。
「・・・それでもダメっていったら?」
まるで俺を試す様ないい方だった。
だけどそんな生半可な気持ちじゃないんだ。
「・・・・すみません。それでも俺には彼女しかいません。だから・・・・」
そう言って立ち上がろうとした時
2人の肩が小刻みに揺れているのがわかった。
え?・・・・なんだ?このリアクションは・・・
すると忍さんが
「もう~お父さん、陸君苛めちゃだめよ。陸君、私たちは何をしたらいいかしら」
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