婚恋

役者は揃った

「え?」
「ごめんなさいね。・・・・陸君、春姫が結婚直前でダメになった事は知ってるわよね」
俺は黙って頷いた。
「あれから娘は恋愛に対して臆病になったの。口では彼氏がほしいっていってたけど、
実際はそうでもなく・・・だから親としてはどうしたらいいのかって随分悩んだわ。
会社やめて・・・店を手伝ってくれて今では一人でも店を任せられるようになった。
でも花屋なんて出会いもないでしょ~。私は女としての幸せも掴んでほしいって
思ってるんだけど・・・でもそれってやっぱり自分自身で掴むものじゃない。
私たちが何かしたところで必ずいい結果が出せるかはわからない。
でも、陸君のお陰でなんだかパッと前が明るくなったわ。
こういう形もありなのかなって・・・それに陸君なら春姫のいいところも
悪いところもわかってくれる。それだけあなたたちは長く付き合ってきたものね。
あなたのこの計画、非現実的だけど春姫の心のドアを開けてくれるきっかけにも
なるんじゃないかな・・・」

正直ここまで言ってくれるとは思わなかった。
春姫の父、隆俊さんの顔を見ると口角をあげ何か楽しげに俺を見た。
「で?俺たちが次にするべき事をおしえてくれるかい?」
「あ・・・は・・はい!・・・えーっとですね、僕の両親にも
 了解を得てます。それから招待客のリストと郵送、
その後少し時間を置いた後に僕は、春姫さんに結婚式のキャンセルが難しいから
 花嫁役をやってくれないかとお願いします。それでもしOKがでたら
 僕が両親を連れてお二方に許しをもらいます。そしてー・・・・・」

俺は結婚式までの流れを春姫のご両親に細かく説明した。
そしてこの事は春姫には絶対に気付かれないようにとお願いした。

その日の夜、百恵から電話がかかって来た。
このタイミングで?
あまりのタイミングの良さに改めて百恵の恐ろしさを知った様な気分だった。

「よかったじゃない!これで本気出していくわよ!とりあえず
 招待する人のリストを作って。もちろんその中に春姫ちゃんも入れてよ。
じゃないと話進まないから」
俺は大きく息を吐いた。
「ああ・・」

「で、藤田さんにも協力してもらうからアポ取っといてね。」
「え?彼女にも話すの?」
「あったり前じゃない。役者は多い方がいいの。アポがとれたら
メール頂戴わかった?」
「わかった」

気がつくと多くの人を巻き込む形になってしまったが
それでも俺は春姫の両親からいい返事をもらいやる気になった


それから数日後、俺と百恵は藤田さんにこの計画の全てを話した。
藤田さんの驚きは半端なかった。
だが、この中で藤田さんだけが春姫の辛かった時期の心の支えだった。
あの頃の俺は春姫の傷を癒す事が出来なかったからね。

「お二人の話はよくわかりました。正直、はい喜んでという返事は
 この仕事に携わってる者としては出来ませんが、春姫ちゃんの事は
本当の妹の様に思ってます。
なので姉代わりとしてお手伝いさせていただきます。」

その返事に俺よりも百恵の方が喜んでいたのには正直驚いた。
「ありがとうございます!こんな突拍子もない事を思いついたけど
実際本当に出来るか心配だったんです。でも同じ女として
春姫さんには幸せになってほしいって思うんです。
ま~~私は何だか春姫さんに気に入られてないようでしたが・・・・」
「え?」
俺の間抜けな返事に百恵が眉間にしわ寄せて睨んできた。
「ちょっと!あんた気付かなかったの?」
「え?・・・そうなの?」
百恵は深く息を吐くと俺の視線を外すように
「結構あからさまだったわよ。なんで陸の彼女が私なのかなって・・・
いつもそんな感じの顔されてましたが何か・・・」
百恵には申し訳ないがなんだかちょっとうれしような・・・・

そんなやり取りを見ていた藤田さんが
「お二人も十分お似合いだと思うんだけど・・・」
「思いません」
「思いません」
珍しく意見が一致・・・それには藤田さんも苦笑いするしかなかったようだ。

「では・・・この計画は口外せずに進めていきます。それでいくつか提案があるんですが
 とりあえず私がこの計画に参加している事も言わないようにしてください。
もちろん私も春姫ちゃんにばれない様頑張りますが・・・・それでー」

藤田さんからのアドバイスを受け、俺達は式への準備を進めていった。

もちろんブーケと装飾花の件は藤田さんのアイデアだった。 
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