婚恋

父と娘

式当日

目覚まし時計とカーテンの隙間から差し込む光で目が覚める。
いつも通りの朝・・・
だけど今日はいつも・・・ではなくきっと一生の思い出となる日・・・
それがどんな意味を持っているか・・・今はわからない。
答えは全て式が無事に済んでからよね。

カーテンを開けその場で大きく伸びをする。
大きな欠伸も一緒に・・・

1階に行こうとスマホを取るとメールが1件あった。
陸からだった
『おはよう・・・式場で会おう・・』
何の色気もないメールだけど・・・
それでもうれしいと思ってしまう・・・
こんなことならもっとこの気持ちに早く気付けばよかったって
心底思った。
私はドアの前に立ったまま陸に返信した
『おはよう・・・私のドレス姿見て卒倒しないように・・・
 式場で待ってる』
送信を済ませるダッシュで階段を駆け降りた。

「おはよう・・・」
いつもなら父は
切り花の買い付けで市場に行っているが
今日はさすがに・・・・あれ?いない・・・

キッチンにいる母にきくと
おばあちゃんの所にいると思うと言われた。
おばあちゃんの所と言っても同居している訳ではなく
仏壇が置いてある部屋の事を言っている。
大好きだったおばあちゃんが亡くなって5年がたつ。
私の花嫁姿を見るまでは死ねないって言ったのにね・・・
偽の花嫁だけどおばあちゃんには挨拶しなくっちゃ。

私は洗面所で歯磨きと洗顔をすると
おばあちゃんの部屋に入った。
そこには父が仏壇の前で正座をして手を合わせていた。
 私は父のすぐ後ろに座ると一緒に手を合わせた。

おばあちゃん。遅くなったけど
やっと花嫁姿を見せる事が出来ます。見ててね。そして・・・
今日の式が問題なく進みますように・・・と

ゆっくりと目を開けると父は私と向かい合わせになる様に座っていた。
「お父さん!」
いきなり目の前にいるもんだからさすがに驚いて思わずのけぞってしまった。
「なんだ?俺に最後の挨拶でもしに来たのか?」
口角を上げ冷やかす様な目付きが私のリアクションを楽しんでいるかに思えた。
「最後のあいさつじゃないけど、今日はお願いします。」
私は手をついて頭を下げた。
「なーんだ。つまんねーな~。俺はさ、『お父さん今まで育ててくれてありがとうございます。
このご恩は一生忘れません」なーんて言ってくれるのを期待してたんだけどな・・」

育ててくれたのはありがたく思ってるが、今日ちゃんと帰ってくるし・・・
そう思うのだけれど、父は父なりに私の事を気遣ってわざと面白く言っているだけ。
「はいはい。そうでしたね。親不幸な娘でごめんなさい。お父さん、今まで
我儘な私を育ててくれてありがとうございました。」
三つ指ついて父のノリに合わせて言ってみたが、なぜか父からはノ―リアクション
何も言ってくれない。
たまりかねて顔を上げると父の目がうっすらと潤んでいる様に思え
ドキッとした。
ちょ・・ちょっと待ってよ・・・ここは笑って返してくれるんじゃないの?
何泣きそうな顔してるのよ・・・・私帰ってくるのに
調子狂うじゃない・・・

何泣いてんのよ~~冗談よって言ってこの場の雰囲気を取り戻そうとした。
その時
「お父さん!春姫早くご飯食べてよ。今日は忙しいの!私も着付お願いしてんだから」
母の声が救世主の様に思えた。
「ご飯だって…先いくよ
私は父を残しキッチンへと向った。

残った父が仏壇横に置いてある小さな写真立てを取った。
「ばあさん、多分今日、春姫は陸君の本当のお嫁さんになると思うんだ。
だからばあさんも春姫の花嫁姿見てやってくれな。」

父はフォトフレームの留め具を外すと写真だけを取り出し
ハンガーにかかってるフォーマルスーツの内ポケットにその写真を入れた。
「そんじゃ~!いっちょ花嫁の父親やったるか!」
そう自分自身に気合いを入れ部屋を出た。 
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