婚恋

思いがけないプレゼント

朝食を済ませると父も母もそして私もそれぞれ慌ただしく準備を始めた。
といってもほぼ準備はできあがっているのだがそれでも気持ちばかりが焦る。
父洗面所で念入りにひげを剃っている様だった。
母は何だか電話をしている様だ。
多分相手は叔母たちだと思う。
いくら偽の結婚式と言っても親戚が誰も出席しないのは
体裁が悪いと協力してもらったらしい。

そして私は・・・
「お母さん!私、店から式場へ直接行くからね。」
ブーケ―とブートニアを取りに店へと向った。

店に着くと箱に入ったブーケとブートニアを車に乗せそのまま
式場へと向った。
予定より1時間早く着くとそのまま披露宴会場へと向った。
そこでは既に係りの人達が慌ただしく準備に追われていた。
私はエプロンつけ花鋏とフローリストナイフをポーチに入れ
装飾花の手直しをする。
花嫁がこんなことをするなんてと思うが
花嫁以前に花屋としての自分がいる。
本当なら今日はこれに徹する予定だった。
まさか自分が主役になるなんて思ってもいなかったしね。
だからと言って手抜きは出来ない…そんな思いで手直しをしていると
入り口から私を呼ぶ声がした。
「春ちゃん!何やってるの?」
明らかに怒ってる声だった。
「藤田さん。おはようございます」
明るく挨拶したものの
「おはようじゃないわよ。あなたは今日主役なの!今すぐ終了させて
 トイレ!トイレに行っておくのよ。それから着付けとヘアメイク
 わかった?」
「は~い」
私は後ろ髪を引かれる思いで会場を後にした。

「ところで昨日は眠れた?」
「う~~ん。眠れたほうかな・・・・」
藤田はホッとすると笑みを浮かべた。
「それならよかった・・・」

部屋に入るとそこには藤田さんが結婚式で着たあのドレスがあった。
「・・・・素敵」
土壇場で無理なお願いをして迷惑をかけたドレス。
画像は見せてもらったが想像以上に素敵だった。
藤田さんのお母様が着た物を藤田さんが受け継ぎ、それを私が受け継ぐことになった。
他人の私がこんな素敵なものを着ていいのかと躊躇ってしまうほど
目の前にかかってるドレスは素敵なものだった。
着方によっては可愛くもセクシーにもみせられるドレスに
胸が高鳴った。

「では早速ドレス着ちゃいましょうか」
藤田さんに言われ私はフィッティングルームに入る。
すると藤田さんが紙袋を差し出してきた。
「藤田さん?これは・・・」
藤田さんはニコっと言うよりはニヤッと口角を上げ
「これは私からのお祝い。これをつけてからドレスを着るように・・・いい?」
よくわからずハイと返事をし、そして受け取った箱をあけ私は目を見開いた

こ・・これって・・・
それはなんとブライダルインナーだった。
「藤田さん?!」
フィッティングルームから名前を叫ぶ。
「なあに?」
「ちょ・・ちょっとこれ・・・」
「だーかーらーこれは私からのプレゼントよ。サイズは春ちゃんママに調べてもらったから
多分大丈夫だから」
「いや・・そう言う問題じゃなくって・・・こんな高価なもの受け取れないって言うか
私は…本物じゃー」
ないと言おうとしたが藤田さんの言葉で遮られた。
「どんな理由だろうと今日の主役はあなたなのよ春ちゃん。
 その主役の春ちゃんに私がしてあげたかったの。」

「ありがとうございます」
ここまでしてくれた藤田さんに胸がいっぱいになった。
本当の結婚式ならよかった・・・そしたらもっともっと心から
ありがとうと言えるのに・・・・
「これで陸君も惚れ直すわよ!」
藤田さんが親指を立てるが、多分それはないと思う。
私は苦笑いを浮かべながら着替え始めた。 
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