婚恋

誓いの言葉

チャペルの手前で父が緊張の面持ちで私を待っていた。
「お父さん」
私の声に父は振り向くが父は私を見て驚いている様だった。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。でもどう?うまく化けたでしょ~~」
「さすが俺の娘だ」
…父らしいと言うか・・・・
きっと父にとっては最大級の褒め言葉なのだとおもっておこう。
「でも・・・本当に綺麗な花嫁だ・・・ほらばあさんもみてみろ・・・」
父は胸ポケットから何かを取り出し私に差し出した。
「お父さん・・・これ・・・」
父は目を潤ませながらばあちゃんが一番見たかった姿だと思ったからとだけ
言ってまたポケットに写真をしまった。
チャペルの扉の前に立つと父は腕を差し出した。
私は父腕と腕を組むとその時を待った。

「なぁ・・・春姫、俺的にはこういうのは1回で十分だからな」
わかってる。本当はそうしたかったけど・・・・
「奇跡でも起こらない限りないでしょ~」
「奇跡ね~~」
意味深な発言と共に扉が開かれた

バージンロードを父と1歩1歩ゆっくりと進む。
参列者をみると
よく知っている人たちがたくさんいた。
え?なんで?
そこにいた人たちは昔、勤めていた会社で仲良くしていた人や
高校からの親友だったり・・・
どうやってこんなメンバーを集めてこれたのか不思議なくらいだった。
時間がなかったし、母にまかせっきりだった。
軽い動揺を何とか隠すように陸の元へ歩み寄る。
陸の左側まで行くと父と陸がお辞儀をして、父は私を陸へ引き渡した。
いよいよだ。
私は自分に言い聞かせた。
私は春姫じゃない…百恵さんなんだ。
役に徹するって決めたんだから。
聖歌斉唱、そして司祭が聖書を朗読して、お祈りします。
正直聖書なんて頭に入らなかった。
どんな気持ちで陸はこの式に臨んでいるんだろう。
隣にいるのに・・こんな近くにいてもとても遠くに感じた。

そしていよいよ誓いの言葉だ。
「椎名陸さんあなたは内田春姫さんを妻とし
神の御定めに従い聖き婚姻を結んで共にその生涯を送りますか
あなたはこの女性を愛し、慰め、敬い、支え
両人の命のある限り一切、他に心を移さず
この女性の夫として身を保ちますか」

「はい、いたします」

え?い・・今・・・え?今私の名前だったよね。
え?どうなってんの?だっておかしいじゃない。
私は百恵さんのかわりだから
ここは私の名前じゃなくて・・・百恵さんの・・
頭の中はパニック状態だった。
だがそんな私の思いなど知る由もない神父は
私に視線を向けると 

「内田春姫さんあなたは椎名陸さんを夫とし
神の御定めに従い聖き婚姻を結んで
共にその生涯を送りますかあなたはこの男性を愛し、慰め、敬い、支え
両人の命のある限り一切、他に心を移さずこの男性の妻として身を保ちますか」

間違いない・・・今本当に百恵さんじゃない私の名前だった。
陸の表情に変化はない。
まるで当たり前のように驚きもせず私にいる。
どうしよう・・・
答えていいの?

心臓が飛び出るほどバクバクしている。
ねえ!誰か何か言ってよ。じゃないと私・・・
はいって言っちゃう。

私の返事がない事に周りがざわつき始めた。
「春姫・・・はいって言って」
陸の微かな声に私は・・・・


「はい、いたします」
そう答えていた。
私の返事を聞くと神父は誓いの言葉の続きを
語り始めるが私にはもう何を言っているのかわからなかった。
何がどうなってどうして百恵さんから
私の名前になっているのかも・・・・
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