婚恋

年甲斐もなく・・・・

ウエディングドレスを脱がせれる。
頭の中でさっきの陸の言葉が繰り返されていた。
確かに私達は結婚して私は陸のものになった。
だけどさっきの言葉はあまりにもあからさま過ぎて
心臓に悪い!
もう半端なくドキドキしている。
決して初めてって訳じゃない。

ただ陸とは初めてで・・・
年甲斐もなく気持ちだけが乙女化してる。
なんなのよ!処女じゃあるまし!
もっと堂々としてればいいのに・・・尋常じゃないくらいドキドキしてる。

そうこうしているうちにあっという間にコテージに着いてしまった。
飛び出そうな鼓動を何とか落ち着かせようと大きく深呼吸した。
「何?深呼吸なんかしてんの?」
「え?・・・あっ?山の空気は気持ちいいな~って・・思って」
わざとらしいにも程がある。
陸はそんな私を見てフッと笑うとそのままコテージの中へと入って行った。
一人残された私も慌ててその後を追った。

コテージにはいると陸はタキシードを脱ぎ始めていた。
ネクタイを緩めボタンを外す姿が妙に色っぽく
私は立ちつくしたままその姿を見つめていた。

「なーに見てんの?そんなに俺の脱ぐ姿がみたい?」
陸がいたずらっ子の様な笑みで私を見た。
「そ・・そんなんじゃないから・・・それに見られて困るなら
 別の部屋で脱いでよね・・・」
恥ずかしくて視線を合わせずに下を向きながら訴える。
全然説得力がない。
本当はもっとかわいい言い方をしたいと思うのに
緊張と焦りで全く余裕などなかった。

「わ・・私・・・私も着替えようかな」
陸が着替えたなら私だって・・と思いパッと顔を上げた。
するとさっきまでソファーに座りながら服を脱いでいた
陸が私の目の前にいた。
「着替え?そんなの・・・俺が脱がすって言ったよね」
目を細めそんな事させないよとでも言いたげな目で私を見つめる。
「ぬ・・脱がすって・・そんな私だってこんな事になるなんて
思ってもいなかったし・・その・・心の準備と言うか・・・
めちゃくちゃ緊張してドキドキしてるの。」
こんな事言ったら嫌われる。
わかっちゃいるんだけどこのドレスの中の下着姿は
とても恥ずかしくって見せられないと思った。

だが、陸はそんな私の手を取り、その手を陸の胸に当てた。
「どう?わかる?」
当てられた手から陸の鼓動が伝わってくる。

私と同じくらドキドキしていた。
「陸?」
「こんなかっこつけた事言ってるけど、俺だってすんげー
 ドキドキしてんだよ。こんなにいつも近くにいたのに・・・
誰よりも手の届きそうなとこにいたのに・・・実際はめちゃめちゃ
遠くて・・・それがやっと手が届いたんだ。普通でいられるわけ
ないよ・・・」
同じだ・・・陸も同じなんだ・・・

そう思ったら私は陸の手とそっと掴むとその手を自分の胸に当てた。
陸は凄く驚いた顔をして私の顔と当てられた胸を交互に見た。
私だって自分でやってる事に驚いてるだけど心とは
裏腹に本能が・・・そうさせた。
「春姫・・・」
「ねぇ・・・私も陸に負けないくらい。凄くドキドキしてるの。
 その理由は陸と一緒なの。こんなに近くにいたのにその気持ちに
気がつかず、手が届かないところに行ってから自分の気持ちに
きづいたの・・・もう二度とこの手に触れる事も出来ないって
思っていたのに陸は私を選んでくれた。凄くうれしいの。
でも・・・凄く恥ずかしくって・・・・」
恥ずかしすぎて顔も見れなかった。
陸の手を私の胸に自ら当てさせておきながら言う台詞じゃないん
だけどでもそれが正直な気持ちだった。
30近い女が言うセリフでもないのにね・・・・

「いいんじゃないの?それで・・・」
「え?」
パッと顔を上げるとそこにはやっぱり優しい顔があって
胸に当ててた手は私の頬を撫でていた。

「その気持ちが分かればもう十分・・大丈夫・・・大丈夫だよ」
陸は私を抱き寄せると耳元で小さく囁いた。


そして陸は耳にチュッとキスをした。
そのキスはおでこ・・・鼻の上・・頬・・優しいキスが下りてきた。
不思議だったあんなにドキドキしてたのに
陸の大丈夫って優しく囁く言葉がすっと身体の中に入ってきた。
理由はわからないだけど・・・陸の囁く大丈夫は
本当に・・大丈夫って思えた。 
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