レンアイ不適応者
* * *
「「「かんぱーい!」」」

 夏休みが始まってすぐに開催された、職場の若手だけでの飲み会だ。雅人、杏梨の他に5人で飲んでいる。

「藤峰さんの夏休みの予定は?」
「あ、えーっと実家に戻ります。あとはちょくちょく出歩こうかと思ってます。」
「実家遠いもんね。」
「そうなんですよー…。」

 若手飲みの方が気が楽だ。年が近いということもあって話題選びに苦労しないということもあるが、あまり気をつかいすぎなくても良いというのがとにかく良い。

「で、山岸さんは?」
「僕も実家ですね。あ、あと旅行行きます。」
「おっ!彼女と?」
「違いますって。いません。」
「そうなの?」
「去年別れちゃったんだよなー山岸さん。」
「その話はいいですって!」

 空気が読めないのは今の若手ではない、と杏梨は思う。上は30歳、下は24までのこの空間では、確実に空気は読まれているし、つっこみながらもそのボーダーをはっきり見極めている。つまり、嫌なことはしないし、されない。

「ふいー酔った酔った。」
「そろそろ時間よね?お開きにする?」
「あら?杏梨ちゃんが酔ってる~!」
「ふえ…?よ、酔ってませんよ…?」
「酔ってるって。足がふらふらしてるもん。目もとろんとしてるし。」
「じゃー山岸さんにお願いしようか。」
「へ?」

(…酔ってないよ、私。)

「杏梨ちゃん一人で帰せないでしょ?それに山岸さんは駅近じゃない。その他みんな電車乗るし。」
「それに山岸さん、杏梨ちゃんのお家分かってるでしょ?」
「知ってますけど。」
「じゃあお願いね。ってことで解散~!」

 杏梨の足はフラフラだった。こんなことになるのは珍しい、というか、杏梨のこんな姿を見るのは、雅人にとって生まれて初めてだった。

(…調子乗って、ビールとか日本酒とか…結構飲んじゃったかも…。っと…。)

「…藤峰さん、大丈夫?」

 がしっと掴んだのは手すりではなく、雅人の腕だったようだ。気が付くと、雅人が杏里の隣に寄り添ってくれている。

「…山岸…先生?」
「…解散になったよ。家まで送るから、帰ろう?」

 しっかりと背中に回った、思ったよりも逞しい腕に思わず甘えてしまいそうになる。しかし、なけなしの理性を振り絞って、杏梨は口を開いた。
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