腕枕で眠らせて*eternal season*



飛んで帰ってきた紗和己さんと大慌てで行ったのは、不妊検査のときにお世話になった病院。


あの時とは違う気持ちで、けれど心臓が止まりそうなくらいの緊張を抱えて診察室へと入った。




「妊娠しています。最終月経日と胎児の大きさから考えてもうすぐ8週目ですね」



女性医師の言葉にこれ以上ないくらい驚いた顔をしたのは、私も紗和己さんも同じだった。



「……だって…自然妊娠は……」


「水嶋さん」


私の問い掛けに、女医さんはキィと椅子をこちらに向けて私たちを見つめた。


「以前私は、検査の結果から導き出される原因と有効な治療をお伝えしました。けれど、それが絶対でなく可能性であることも。

どんなに医学が進んでも、人が調べる以上、人の体は未知です。

水嶋さんの妊娠は、想定外でもなければ奇跡でもありません。とてもとても低い確率、その中での妊娠。それだけです」



その言葉を聞いた私の身体に、新しい実感が芽生えていく。

とても低い確率の中で、それでも息づいてくれた命の実感が。


まっすぐ話を聞いていた私たちに、女医さんは口角を少しだけあげてもう一度続けた。



「これは個人的な意見ですが。私は妊娠を奇跡や授かりものと称する事を自分に禁じています。運命とも思いません。

立派な人格をお持ちで努力を長年重ねても子供の出来ない夫婦はごまんと居ます。そんな方々を見続けた私に、子供は授かりものだ、運命だとは口が裂けても言えません。あくまで確率の問題だとお伝えします。

けどね、水嶋さん。
妊娠は運命では無いけれど、産まれた子供の運命を導く事は可能なんです。どうか、芽吹いた命を大切にしてあげて下さい」



その静かな激励は私の中に、そしてきっと紗和己さんの中に、深く深く沁みていった。



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