腕枕で眠らせて*eternal season*



「美織、嬉しそうだったよ。可愛いドレス着るんだって張り切ってた」


湿っぽい思考に浸っていた頭を、愛子の声が呼び戻した。


…ドレスねえ。
そりゃそうだろ。アイツの事だからきっと、フワフワヒラヒラなドレス着るんだろうなあ。


「……なあ、それ、俺も行っちゃダメかな」

「はあっ!?あんた何言ってんの?」


俺の申し出に、愛子は飲み掛けのジョッキを口から離して目を丸くした。


「いいじゃん。俺もう美織と仲直りしたんだし、お祝いにちょろっと駆け付けるぐらい」


「あのねえ。いくら美織と仲直りしたからって、あんたあの子の親に一度会ってるんでしょう?どのツラ下げて出ていくつもり?」


…そっか。そうだよな。結婚式なんだから親だっているもんな。


「何よ楷斗。まさか今更未練があるんじゃないでしょうね」


ガッカリとした表情を浮かべた俺に、愛子がジトッと怪訝そうな視線を送る。


「別にそんなんじゃねーよ」


俺はその視線を交わしながら、ジョッキのビールを煽った。



―――ただ。


ヒラヒラフワフワなドレスを着た美織が見たいと思ったんだ。


キレイなドレスを着て、きっとお姫様みたいに笑う美織の笑顔が。


もう一度だけ、見たかったんだ。




「あれ?あんた煙草やめたんじゃなかったっけ?」


鞄の奥でクシャクシャになってた煙草に、むりやり火を着けようとしてる俺を見て愛子が言った。


「解禁」


4年間、鞄の奥で眠ってた煙草に当然火など着く筈もなく。

けど、せめて目に染みる煙でもなけりゃ、馬鹿な俺は強がって「おめでとう」とさえ言えねえじゃねえか。




―――ごめんな、美織。


最後まで素直におめでとうも言えない情けない男で。


けどせめて、心の隅っこで祈るぐらいは出来るから。


もう美織が泣いたりしませんようにって。


いつかまた会えた時

美織は笑ってますようにって―――





【another story(1)】

―end―




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