腕枕で眠らせて*eternal season*
―――
「6月7日だって。ジューンブライドだね」
賑やかな居酒屋の雑音の中、愛子から伝えられたその情報は、俺の耳を滑っていった。
「……相手って、あのデカいの?」
「そう、水嶋さん。良かったよね、イイ人で」
「ふーん…」
別に。
今更ショックなんて受けねえよ。
もうなんとなく分かってた事だし。
「…って、あれ?なんで楷斗、水嶋さんのコト知ってるの?」
「うん、まあ、ちょっとな」
ふと、よぎる。去年の冬、あの雨の日の事。
泣いた美織の涙をあの男が拭ってやってるのを見て、俺は不思議な気分になったんだ。
おかしいな。それは俺の役目だった筈なのにって。
そうやって、美織を慰めて笑顔にしてやりたいって。そう思い続けてた筈なのに。
いつの間にか俺はアイツを泣かせる事しか出来なくて
そしてその涙は…もう、拭ってくれる男がいるんだって、俺はその時ようやく実感したんだ。
あの男の隣で、美織は俺にまっすぐ意見が言えるくらい強くなってて。
その男がどれほど美織を支え続けて来たかが、嫌でも分かっちゃったんだ。
―――ああ、情けないな、俺。
いっつも自分の事ばっかで、失ってから気付く。
もう美織は、二度と俺のものにはならない。