腕枕で眠らせて*eternal season*
「観光客を装った質の悪いナンパです。わざと聞き取りにくい英語で喋って強引に約束を取り付けるんですよ」
私に連れの男性がいた事に気付いた赤髪の外人さんはバツが悪そうに人混みへと逃げていった。
その後ろ姿を忌々しげに見ながら、紗和己さんは私の肩を抱いて説明する。
その瞳に、口調に、彼らしからぬ険しさが滲んでるのに気付いた。
「助けてくれてありがとう、紗和己さん。ごめんね、私、英語あんまり分からないからちゃんと断れなかった…」
「いえ、僕が油断してたのがいけないんです」
バサリ。
喋りながら紗和己さんは自分の着ていた夏物のジャケットを脱ぐと、私の肩にそれを手早く羽織らせた。
「え?」
その行動の意図が分からなくて、ぱちくり一度まばたきをする。
「着てて下さい。…今日の美織さんの格好、とても可愛いですけど、少し刺激が強いと思うんで」
……えっ?
「ええええっ!?これが!?」
思わず大声を出してしまった。
だって、信じられない。
今日の私の格好はレイヤードレースのロング丈のワンピース。ノースリーブだけど7分丈のレースカーディガンをちゃんと着てるし脱ぐつもりも無い。胸元だって開いてるワケじゃなし。
あまり露出した服が好きでは無い私は、夏だって短いスカートは履かないし腕や肩も出さない。もちろん身体のラインが出るようなものも着ない。
自分で言うのもなんだけど、男の人の劣情を煽る要素などこれっぽちも無いと思うんだ。
なのに。
「紗和己さん変だよ。この格好が刺激的だなんて」
その感覚、私には理解できない。
「美織さんは女性だから分からないんですよ。男がどういう視線で見ているか」
……むっ。
ちょっと呆れたように言った彼の言葉に、私の頬がふくらんだ。