“ブラック”&“ホワイト”クリスマス
☆ ☆ ☆
「いいなぁ…」
不審な動きがないのか警戒しながら街を歩き回って、何時間かが経過した。
いいなぁ、というアンジュの溜め息混じりのセリフを、もう何回聞いたかわからない。
パーカーのポケットに両手を突っ込んで歩きながら、アンジュは幸せそうに街を歩く人々を見つめていた。
街のメイン通りは、道の両側に植えてある街路樹、そしてその両脇に立ち並ぶ数々のお店が入ったビル群も、まるでおとぎ話の世界にいるような錯覚に陥るほど、きらびやかなイルミネーションに包まれている。
そんな中、今は「ブラック」の行動をより広い範囲で監視するため、クロシェットとレンヌ、アンジュとアダムの2チームに分かれて行動していた。
「いや、こいつらの半分はツイッター効果で集まってるような気がしてならねぇんだけどな」
周りを見渡しながら、呆れたようにアダムは言った。
その証拠に聞こえてきたのは、コンビニから出て来た一組のカップルの会話だった。
「ねーねー、ホントにこのイルミネーションが消えるのかなぁー?」
「どうかなぁ。ま、消えたら「ブラック」の勝ち、消えなかったら「ホワイト」の勝ちって事だろ」
「アキラはー、どっちを応援するのー?」
「どっちでもいいよ、そんなのさ。マリって、ホントこういうの好きだよなー」
そんな会話をしながら、アンジュ達の横を通り過ぎていく。
アダムは肩をすくめて。
「……だろ?」
「なぁんでホワイト応援するって言わないのよ、あの彼氏」
「怒るとこ、そこか?」
「あ、あのカップルが持ってた肉まん食べたい」
「子供か!!」
それでもアダムはコンビニに入り、肉まんを2つ買わされる羽目になるのだが。
「さっきケーキ食ったばっかだろ。太るぞお前」
「お年頃はそんなの気にしなくていいの!」
寒空の中で食べるアツアツの肉まんはまた格別だ。
「なぁ、こうやってると俺達も、恋人同士みてェだな」
アダムがそう言って、アンジュがその顔を見上げた時、ポケットでチャイムが鳴った。
「あ、ラインきた」
ポケットからスマホを取り出し、慣れた手付きで操作するアンジュ。
「誰だ?」
「レンヌ」
いつの間にラインのID教え合ってるんだよ、と、アダムが隣でツッコミを入れる。
確か、お互いに全ての素性は謎じゃなかったのか?
「何だって?」
「うん、ちょっとね…変な動きがある、って」
話しながらも、アンジュはせわしなく人差し指を動かしている。