“ブラック”&“ホワイト”クリスマス
 集中しているアンジュは取り敢えず放っておいて、アダムは肉まんを片付ける事に集中する。

 しばらくすると、アンジュはスマホをポケットにしまった。


「変な動きって?」


 アンジュがこっちを見上げるのと、アダムが肉まんの最後の一口を飲み込むのは同時だった。


「うん…」


 その表情は、何処か暗い。


「どうした?」

「ね、やっぱり、レンヌ達と合流しようか。街の皆がね、公園に向かってるような気がするんだって」

「公園?」


 アダムは聞き返す。

 このあたりで公園といえば、街の緑化運動の一環である自然豊かな場所だ。

 そういえば今年は、イルミネーションに相当力を入れた、と新聞に書いてあったような気がする。

 その公園の中心にある噴水の前で、日付が変わるのと同時に告白すれば、必ず結ばれるという噂も。

 だから今夜はきっと、噴水は告白の洪水で溢れているに違いない。


「合流するったってなぁ、今夜はクリスマスイブで、恋人同士ならみんなそこに行くだろ。それを見てレンヌ達が“みんなそこに集まってる”って言うんなら、そりゃ意味はねぇな」

「でもさ、もしヤツらの狙いが公園だったら?」

「わかんねぇだろうが、そんなの。もし、そうじゃなかったらどうすんだ?」


 アダムは、敵の狙いがはっきりしない以上は、公園のイルミネーションはレンヌ達に任せて、自分達は街を警戒しておいた方がいいという。

 それは、最もだと思うのだが。

 アンジュは、もう一度スマホを取り出して時間を確かめる。

 深夜11時を回ろうとしていた。

 このまま何事もなく1日が終わる、なんて事は有り得ない。

 ヤツらはこのラスト一時間で、必ず動きを見せる筈だ。


「ねぇ、あたしがどうして組織「ホワイト」のエースって呼ばれているのか分かる?」


 おもむろに、アンジュは言った。

 いきなり何を言い出すんだ、と、アダムはきょとんとしてアンジュを見つめる。


「ずっとね、自分の直感を信じて生きてきたからよ」

「そりゃ…大したもんだ」

「そのエースがね、犯行現場で戦わないでどうすんのよ?」

「だぁから、犯行現場が公園だって決まってねぇだろ!!」

「じゃあ、どうしてこっちで何も起きないのよ!」

「知るか!!」


 道端で怒鳴り合いを始めた2人に、サンタクロースが近付いてきて、アンジュの手に風船を握らせた。


「メリークリスマス。ダメですよ、こんな夜に喧嘩しちゃ…」


 小さな声でそう言って、サンタクロースはにこやかに去っていく。

 アンジュとアダムは、2人してその風船を見上げた。

 ピンクのハートの形をした風船。
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