面倒臭がりの異界冒険伝
序章 平穏
――あぁ、面倒臭い。






今にも雪の降りだしそうな空の下。


憂鬱そうな息を白く吐き出したのは、手袋にコート、そしてマフラーを揃えて纏った少女だ。


冬の半ばという一番寒い時期はどれほど完璧に防寒を施そうともこの寒さの前では暖房の利いた家にいない限り寒がりにとってはこの上ない地獄である。



だというのに、冬休みという貴重な休日に…外に出ることになるとは、何て皮肉だろうか。




もう一度だけ溜めた息を吐き出して、今更だと気持ちを切り替えてから、楽しそうに歩く少女を横目で見やった。



緩くウェーブがかった肩までの柔らかな髪。

幼くも見える白く小さな顔に均等に揃ったたれ目がちな大きな瞳。

華奢な肢体はすらりと細く、少女のどれをとっても愛らしく映るその容姿に加え、裏表のない優しい性格を顕著に示す花がほころぶように柔らかな笑みは、老若男女問わず見事に魅了してしまうだろう彼女の名は宮崎杏奈。




冷え込んだ日のまだ寝れるだろと言いたくなる昼前のこの時間に、低血圧で朝が弱い上に、超がつく面倒臭がりと自負するあたし、神紀悠奈を外に連れ出してくれたりした張本人である。


“起きて、お姉ちゃん!あのね、お母さんにおつかい頼まれたから、お姉ちゃんも付いてきて欲しいな。”


との事だった。


いくらその顔を見慣れていようと純粋な笑顔に勝てるはずもなく、こうして仕方なくついて来たという訳だ。



ちなみに十年前まで両親の友達の娘だった二人の関係は今や、同じ家に住む外見も中身も全く似ていない義理の姉妹に変化した。




あたしは先程の通り自他ともに認める面倒臭がりで、おまけにひねくれた性格。


容姿で言えば、真っ直ぐに長く伸びた黒い髪に、杏奈とは逆を行くつり目がちな瞳。


顔は杏奈と比べるまでもない平凡さで、極めて特徴のない普通の女子高生だ。


強いて褒めるとすれば、やる気の無いくせに無駄に天才と評された頭と、その目つきの悪さだろうか。


普段はやる気と活力の無さを思い切り示しているのに、いざ不機嫌になったときの顕著さといったら無い。


目つきが悪い以前に人を殺す気かと本気で怯えられたことがあり、誰かを脅すときなどにはもってこいだろう。





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