揺れる恋 めぐる愛
「よろしくお願いします」

「よろしく。営業なんて興味ないかもしれないが何事も経験だ。

せっかくだから色々と実になる様に頑張ろう」

頭を上げると恐ろしくさわやかに微笑んだ顔にくぎ付けになった。

射抜くように見つめる瞳が揺らめき、奥に何かがチラリと見えた気がした。

少し憂いを含む??何かが……

私には幼いころからこういう訳のわからないものが

見透(み)える時がある。

嫌だと思うことはよくあったが、それはどうしようもなく……

仕方のない事と諦めた。


瞬きするとさっきの変わりない笑顔で手を差し出している……

気のせいだろうか?

異性にはほとんど関心のないはずの胸がざわついた。


私がこの男……

主任に対して初めて抱いた思いだった。


佐々木主任は、研修中にお世話になった上司の一人だった。

この会社は入社後最初の半年間で3つの課を回る研修があった。

その6か月を過ごしたのちに希望部署を書類で提出し配属先が決まる。


研修で主任のいる営業課に来たのは2番目だった。

研修とはいえ私はもう社会人なんだ……

与えられる仕事を一生懸命こなす日々。

やっと慣れたと思う頃に違う課での研修……

私は営業職希望ではなかったので研修期間中は

事務処理などの後方支援をすることになっていた。
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