幸せをくれた君に
「美馬君、もうすぐ黒川君が娘さんをつれていらっしゃる。彼女のことを思い出してにやけるのは、そのへんにしときたまえ」


隣に座る社長にたしなめられ、ふと我に返る。


そして、今、自分が社長とともに、ホテルの最上階にある高級レストラン『ノア』で黒川専務とその娘を待っている状況を認識した。


「申し訳ありません」


「いいかね、とりあえずは4人でディナーをとり、その後は若い二人で、ということで、わしと黒川君は席を外す」


社長は余程、心配とみえる。

昨日も社長室に呼ばれて、聞かされた段取りをもう一度繰り返す。


「あとは君にまかせる。けれど、相手を不快にさせないことだけは、よろしく頼む」


それも昨日、幾度となく聞かされた言葉だ。
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