jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
震える右手を、千砂兎さんに差し出した。
「ここだよね?」
わたしは、小さく頷いた。
千砂兎さんが真実を教えてくれるまで、その傷が何を意味しているのか分からなかった。
いつ、何のために、何を使って、自虐行為に走ったのか、記憶が定かではなかった。
お母さんに問いかけようとしたけど、思い出すことが怖くて、最後まで触れられなかった。
年月が経つほどに目立たなくなってきたその傷は、真実を知って悲しいのか、痛いのか、ちょっぴり甘酸っぱいのか、どんな思いを抱いているのか、わたし自身も分からなかった。
抱えた謎が氷解すれば、傷心を抱いて後悔するか、至福に満たされて喜悦するかのどちらかだと思っていた。
だけど、この件は、どちらにもぴったりとは当てはまらず、どう処理したらいいか困惑した。
「ごめん、思い出させてしまって・・・・・・。だけど、蕾に対して、軽い気持ちで頼み事をしたわけじゃないことを分かって欲しかったんだ。この出会いだけは譲れない。忘れて欲しくない。ずっと覚えておいて欲しい。わたしの原点なんだ」
千砂兎さんの切れ長の目は、少し目尻が垂れ、瞳の奥に秘密の水晶を溜めこんでいるかのように光ってみえた。
「分かりました・・・・・・。あなたとお揃いの純美な傷跡のこと、一生忘れません。もし、傷跡が消えても、あなたがわたしの前から消えることはないので、大丈夫ですよね?」


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