jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
瞼は、更に開け辛くなった。
溢れてくる涙が、強力ボンドのように瞼と瞳をくっ付けるからだ。
「蕾、目を開けてごらん。もう怖いものは何1つないよ」
「あるよっ・・・・・・、だって、香さんに嫌われてしまったもの・・・・・・。目を開けるのが怖い・・・・・・」
香さんは、どんな表情でわたしを見下ろしているんだろう?
溢れるのは怒り?
それとも、他人行儀な同情?
どちらも嫌だ・・・・・・。
「愛している・・・・・・。僕は蕾を愛している。悔しいよ、見知らぬ男に触られてしまった。僕のせいで・・・・・・。もっと、早く帰ってきていればよかった。痛いなぁ、すごく痛い・・・・・・。目の前で見てしまうと・・・・・・。彼氏にもそうされていると思うと、何とも言えない気持ちになる。表現できない。限度を超えてしまうから・・・・・・。本当は、僕も蕾にもっと触りたい。好きなだけ・・・・・・好きな角度で好きな深さで・・・・・・」
さっきの気が昂った香さんは、どこにもいなかった。
いつもの香さん、だけど、身も心も震えている別人のような香さん・・・・・・。
「わたしも愛しているよ・・・・・・いつかはきっと結ばれるって信じてる」
そう言いながら、目を開くと、中腰になっていた香さんを反射的に抱き締めていた。

涙に濡れる愛も、素晴らしく美しい。
涙が溢れる愛ほど、濃く深い。
< 50 / 159 >

この作品をシェア

pagetop